奈良時代に端を発するとされる全600巻という膨大な経典が県立博物館で保管されることになり、本格的な調査が開始されました。 調査にあたる東京大学の山口教授は「重要文化財・国宝級の価値がある」と話しています。 「大般若経」は西遊記で知られる三蔵法師がインドから中国に伝えた経典で、全600巻にも及ぶ膨大なもの。 日本でも全国各地の寺院に伝わっており、お経の一部を読み上げ、風通しをかねてお経を空中に広げたりする「転読(てんどく)」という行事で知られています。 小川八幡神社でも毎年7月に転読と、お札を刷って配布する行事が続けられてきました。 "幻の寺"の写経に『秘計』 謎の多い成立過程 昭和53年から関西大学教授の薗田香融さんによってこの大般若経の調査が行われ、奈良時代〜室町時代まで、実に800年あまりの歳月をかけて収集・補充されていたことや、「日本霊異記」に記述がありながら現存せず"幻の寺"と呼ばれている三毛寺(みけでら)で写経されたものを含んでいること、などが分かりました。 どのような経緯で今の姿になったかは謎に包まれている部分が多く、薗田さんの著書には「地元の人が『秘計』をめぐらし、高野山から不足している巻を入手した」といった記述もあります(*1)。 学界では長らく本格的な調査が待たれていましたが、今年2月、大般若経が県立博物館で保管されることになり、これにともない、今年から3年間かけて東京大学などによる調査が行われることになりました。 担当する東大教授の山口英男さんは本紙の取材に「日本最古級の大般若経であり、(国宝や重要文化財に指定されている)ほかの大般若経にも匹敵する価値がある」と答えています。
地域で伝えられてきたことに価値がある 今回の調査では資料の整理や赤外線撮影が行われる予定で、今まで判読できなかった部分が解読できるようになることも期待されています。 山口教授は「長い歴史の時間を通じて地域で大切にされ、伝えられてきたことに大きな価値がある」と話しており、今後は調査を進めるとともに、地元での講演会も予定されているとのことです。 *1=薗田香融「南紀寺社資料」'08年関西大学出版部 参考=「小川八幡神社大般若経の文化資源化研究申請書」代表者・山口英男、'19年 東京大学史料編纂所 竹中康彦「中世の根来寺に関わる大般若経について」'08年 和歌山大学梅津研究室 野上町誌
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