Arikaina 2022/5 紀美野町・小川八幡神社の「大般若経」
研究により新たな発見も

何百年も、地域の心のよりどころに
紀美野町・小川八幡神社の「大般若経」


 生石山のふもと、紀美野町の小川八幡神社に伝わる全600巻の「大般若経」。
3年前から東京大学や県立博物館によりはじめて本格的な調査が行われ、このほど全巻の写真撮影が完了しました。調査にあたった東大の山口英男教授は、文化財としての価値は「重要文化財・国宝に匹敵する」と話しています。県立博物館では、この大般若経を展示する特別展を開催中です。


小川八幡神社の大般若経。上は奈良時代、下は南北朝時代に書写されたとみられるもの
写真提供:県立博物館
※(5/16更新)初出時、写真提供表示が抜けておりました。お詫びして訂正いたします

最古のものは奈良時代
"600巻をそろえる"ことにこだわり

 大般若経はお釈迦様の説法を記したもので、全600巻という膨大な分量をほこる経典です。東大が調査の結果をまとめた調査概報によると、日本では奈良時代(約1300年前)から、災害から逃れることや病気の回復を願って大般若経の読経(転読)が行われ、全国各地でさかんに書写されたとみられています。疫病が流行したさいにも、おさまることを願って大般若経の転読が行われたとのことです。

 小川八幡神社の大般若経は奈良時代から室町時代(約600年前)まで、さまざまな時代に書写したもので全600巻が構成されています。調査にあたった県立博物館の竹中康彦副館長によると、南北朝〜室町時代ごろに小川地区の人たちが大般若経を集めはじめ、足りない分は地元のお坊さんが高野山で書写するなどして、長い年月をかけて全600巻がそろえられたとみられるとのことです。「600巻すべてをそろえる、ということに非常にこだわりを持っていたことがうかがえます(竹中さん)」

 紀美野町内には小川八幡神社のほかにも、野上八幡宮や満福寺など、大般若経が伝わっている神社やお寺が数多くあります。「この地域は、かなり経済力があったのではないでしょうか。(大般若経は)非常に高価なものだったはずです(同)」

有田からも足りない分を融通か

 今回の調査により、広川町の広八幡神社や有田川町の安楽寺・観音寺に伝わる大般若経の一部が、小川八幡神社の大般若経に加えられていたことも新たに分かりました。「広八幡神社に現在伝わる大般若経は、以前は御霊神社(有田川町)にあったことが分かっています。600巻に1巻でも足りない巻があれば、神社やお寺の間で補充するといったことが行われていたようです(竹中さん)」

つい最近まで"現役"で行事で使用
予定を延長し、さらに調査を続行

 今回の調査に先立ち、小川八幡神社の大般若経は'19年から県立博物館に寄託されることになり、現在は同博物館で保管されています。しかしそれまでは毎年7月、神社で行われる行事で"現役"として読経(転読)用に使われていました。現在も転読はできないものの行事自体は行われており、竹中さんによると、行事のときのみ一部お返しすることも検討しているとのことです。

 東大の山口教授によると、小川八幡神社の大般若経は非常に保存状態がいいとのこと。「(神社の行事で)年に一度は開巻することが連綿と継続されていたことが、こうしたよい保存状態をもたらしたと思います。痛みを補修していたことも調査で分かりましたし、経巻を収めるための櫃(ひつ=箱)も、数百年にわたり大事に使われています。地域の人々の心のよりどころとして、時を超えて大切に扱われてきたのだなと感じます」文化財としての価値について、山口教授は「重要文化財・国宝に指定されているほかの事例に匹敵する、すぐれた価値があるものと考えます」と話しています。

 紀美野町の教育委員会によると、町内には重要文化財は10点ありますが国宝はなく、もし申請して指定されれば、町内でははじめての指定になります。東大による調査は当初は昨年度で終了予定でしたが2年間延長され、使用されている紙や、書風などの研究が続けられるとのことです。


▽県立博物館 特別展「きのくにの大般若経—わざわいをはらう経典—」
※小川八幡神社のものをはじめ、県内各地に伝わる大般若経を展示しています。
期間=開催中〜6月5日(日)まで
入館料=一般520円・大学生310円
月曜休館 駐車場有(博物館展示室入場の方は最初の2時間無料、以降30分ごとに100円)
会場と問い合わせ=県立博物館(和歌山城南隣)
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TEL.073・436・8670

参考=小川八幡神社大般若経調査概報 2019—2021(東京大学史料編纂所 特定共同研究「小川八幡神社大般若経の文化資源化研究」代表 山口英男、2022年3月)/有田・海南のフリーペーパー Arikaina 2019/6号

※(5/16更新)初出時、書名と代表名に誤りがありました。慎んでお詫びしますと同時に、訂正致します。


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