Arikaina 2022/4 IRカジノ、県民にほとんど説明なし
説明会から議決まで、わずか2か月ほど

説明会、各地域で1回ずつだけ…IRカジノ、県民にほとんど説明ないまま議決に突入


 県がマリーナシティで進めているIRカジノ。今月はいよいよ、県議会での議決が行われる見通しです。しかし計画案が公表されてから、県民への説明は各地域ごとに1回のみ。ほとんど説明がないまま、県として計画を了承するかどうかが決められることになりそうです。


相次ぐ延期も、迫る期限
かけ足で国に計画案を申請へ

 県は昨年6月、IRカジノの事業者としてクレアベストニームベンチャーズ(以下クレアベスト社)を認定。当初は11月には説明会や、県民から広く意見を募るパブリックコメント(パブコメ)が実施される予定でした。

しかし、県議会のIR対策特別委員会(以下委員会)が「計画案の中身に不確定な部分が多い」として、延期を決定。2月には県議会や和歌山市議会で計画案の賛否を問う議決が行われる予定でしたが、これも延期になっていました。

 IRカジノの計画案は4月28日までに国に申請しなければならないことになっており、それまでに説明会やパブコメ、議会での議決を済ませておく必要があります。結局、説明会やパブコメは「申請日程が決まっている(2月7日の委員会での藤山委員長の談話)」として、3月に開催することに。

説明会は県内14か所で開催されましたが、時間は1回につき90分ほど。会場では質問も受け付けられたものの、1人につき一問一答しか認められず、再質問はできないという形でした。計画案が公表されてからの県民への説明は、各地域ごとに、この1回しか行われませんでした。

 一方、パブコメには410人もの人が意見を提出。しかし県は「賛否を問うものではない」として、あつまった意見の要旨のみを発表。否定的な意見と肯定的な意見のどちらが多かったのかは、明らかにしませんでした。

事業者が決まってからのIRカジノ計画の流れ

2021

6/3
県がクレアベスト社を事業者に選定

10/8
県議会がIR対策特別委員会(以下委員会)を開催

11/19
県議会が再度委員会を開催。計画の内容が不十分だとして、予定していた説明会・パブリックコメントが中止に。事業者側は、
1月末には計画の内容を固めると"約束"

2022

2/7
県議会が再び委員会を開催。"約束"通りにはいかず、計画の内容は不十分としながらも、「申請日程が決まっている」ため、説明会・パブリックコメントの実施を決定

2/?
当初は2月に県議会と和歌山市議会で計画案について議決する予定だったものの、延期に

2/28〜3/6
県が14か所で説明会を開催。うち6か所は、3か所ずつオンラインで同時開催

3/17
県議会が再び委員会を開催。事業者の代表が出席し、「非常に自信があるという手紙」で約3,000億円を集めると説明

3/30
和歌山市議会が計画案を議決し、可決(了承)

4/?
県議会が計画案を議決(予定)

4/28
県から国への計画案の申請期限

年内?
国がIRカジノの実施区域を認定(全国で最大3か所)

巨額の資金、「非常に自信があるという手紙」で調達?

 3月17日、県庁で開かれた県議会の委員会。クレアベスト社の役員であるマリオ・ホーさんがオンラインで出席し、計画について説明しました。マリオ・ホーさんの父親は、マカオで長年カジノの運営を独占し、"マカオのカジノ王"と呼ばれたスタンレー・ホーさん。兄には、同じくカジノやIRを手がけているメルコリゾーツ社を率いるローレンス・ホーさんがいます。

 クレアベスト社の計画では、投資額のうち約3千億円を融資(借り入れ)で調達することになっています。県議会の委員会ではこの点について「本当に借りられるのか」といった意見が相次いでいましたが、マリオ・ホーさんは、「主幹事行のクレディスイスから、 highly confident letter(ハイリー・コンフィデント・レター=借り入れるお金をあつめることに、非常に自信があるという手紙)を得ている」と説明。

この「非常に自信があるという手紙」があれば、確実に3千億円をあつめられると力説しました。「私が知るかぎり、『非常に自信があるという手紙』と(カジノなどの)ライセンスの両方を取得して、資金調達できなかった事例はゼロです(ホーさん)」

観光庁「見てみないと何とも言えない」

 ただ国(観光庁)では計画案の申請にあたり、借り入れをする場合は融資確約書のような「資金調達の確実性を裏付ける客観的な資料」を提出することを求めています。実際、和歌山と同様にIRカジノの計画を進めている大阪では、三菱UFJ銀行と三井住友銀行が融資確約書を提出しています。

『非常に自信があるという手紙』が「資金調達の確実性を裏付ける客観的な資料」と言えるのかどうか、本紙が観光庁に聞いてみたところ「内容を見てみないと、何とも言えない(担当者)」と話していました。

IRカジノのイメージ図
(県の整備計画案より)

「検索しても出てこない会社」が数十億円を出資?

 クレアベスト社の計画ではこの融資による3千億円のほか、約600億円を「少数株主」からあつめるとしており、計画案では9社を少数株主として記載。平均すると、1社あたり約67億円を出資することになります。

少数株主は東京の西松建設(株)以外は、すべて海外の企業。中にはアメリカの証券会社・キャンターフィッツジェラルドのような大企業もふくまれています。

 しかし本紙で少数株主の社名をインターネットでGoogle検索してみたところ、「Zlony Holdings」と「NFKing Production Ltd.」の2社については、出てきたのは和歌山のIRカジノに関することのみ。

Google以外の検索エンジン(Bing,DuckDuckGo,Baidu,NAVER)でも検索してみましたが、和歌山のことや、似た名前の企業が出てくるだけで、特に企業を特定するような検索結果は得られませんでした。県と事業者は、検索しても情報が出てこないような会社に数億〜数十億円?を出資してもらうつもりのようです。

知事「賭け事はあまり好きじゃない」

 計画案では、IRカジノにはカジノのほかホテルや展示場・レストランなども設置されるものの、売上は7割ほどがカジノによるものと見込まれています。

 3月10日に開催された、県議会の定例会。IRカジノのことについて中拓哉議員(公明党)は「(知事が)クレアベストがやってることに『かけていく』というようなこと言われたらですね、94万、95万の県民のこの先をですね、いくら賭場、博打、鉄火場、つくるにしてもですね、そこに『かける』てな表現はですね、避けた方がええんちゃいますか。どうでしょう」と質問しました。

これに対して仁坂知事は「日本語は難しくてですね、危険を冒してするとか賭け事をするとか、私もあまり賭け事好きじゃないもんですから、けしてそんなこと言っているわけではございません」として、『賭ける』ではなく『掛ける』の意味である、と答弁していました。

 知事が『掛ける』としている、和歌山のIRカジノ計画。しかしそこには県民への説明や資金調達の確実性など、さまざまなものが欠けているようです。

参考=有田・海南のフリーペーパー Arikaina 2021/12,2022/3/和歌山県「和歌山県特定複合観光施設区域整備計画」(www.pref.wakayama.lg.jp/prefg/020100/d00210071_d/fil/keikaku_zentai.pdf)/和歌山県『「和歌山県統合型リゾート(IR)」説明会の開催結果について』(www.pref.wakayama.lg.jp/prefg/020100/d00209696.html)/和歌山県「和歌山県特定複合観光施設区域整備計画(案)に対する意見募集の結果について」(www.pref.wakayama.lg.jp/prefg/020100/d00210041.html)/和歌山県議会録画中継 令和4年3月10日/Facebook「澤崎 泰彦 3月30日 11:36」(www.facebook.com/yasuhiko.sawasaki/posts/4929304993814421)/観光庁「特定複合観光施設区域整備計画に係る認定申請の手引き」(www.mlit.go.jp/kankocho/content/001417501.pdf)/大阪府「大阪・夢洲地区特定複合観光施設区域の整備に関する計画」(www.pref.osaka.lg.jp/attach/42448/00000000/00_kuikiseibikeikaku.pdf)/yahoo!finace「Stanley Ho's youngest son Mario launches firm to help family offices tap investment opportunities in Greater Bay Area」(finance.yahoo.com/news/stanley-hos-youngest-son-mario-093000660.html)/Yahoo!ニュース「中国から「愛国的同胞」と讃えられたマカオ・カジノ王の遺産『1兆円超』——四つの家庭の骨肉の争い再燃も(西岡省二)(news.yahoo.co.jp/byline/nishiokashoji/20200605-00181981)/IAG Japan「和歌山IR 事業者『クレアベスト』の運命共同体は『AMSEリゾーツ』と『パルトゥーシュ』に決定(www.asgam.jp/index.php/2021/06/08/clairvest-names-william-weidner-firm-frances-groupe-partouche-as-wakayama-consortium-partners-jp)


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