Arikaina 2023/9 "分割された7つの発電所"計画が物議
ちっさに分割すれば、面倒なことせんで済む?

「実際はもっと大きい」「地盤の弱いところに建てないで」紀美野町の"分割された7つの発電所"計画が物議


 もともと池の周囲で地盤が弱いうえ、大雨が降ると浸水。全体では広い場所なのに、小さく分割して知事の認定をかわそうとしているのではないかーー紀美野町・動木(とどろき)地区で計画されている太陽光発電所に、地元住民から懸念の声が相次いでいます。9月4日には、町議会が地盤調査の専門家を招いて委員会を開催。委員会に所属する議員だけでなく町議会の議員全員が参加し、関心の高さをうかがわせました。

紀美野町・動木の計画地。左上に見えているのが紀美野町役場(9/7撮影)

予定地はもともと湿地「大雨が降ると池みたいになる」

 発電所が計画されているのは、紀美野町の役場や中央公民館からもほど近い、町の中心部とも言える地域。町役場から道路をはさんで向かい側の「樫河池(かしこいけ)」の隣接地です。地元の人によると、3年前に発電所の話が持ちあがったとのことです。

 発電所の予定地は、池に隣接していることもあって湿地になっています。付近の住民によると大雨が降るとすぐ浸水してしまうとのことで、今年6月の豪雨のさいには「ここも池のようになってしまった」とのことです。

 9月4日に開催された、紀美野町議会の委員会。意見を聞くために、土壌汚染調査の専門家が大阪の会社から議会に招かれました。議員からは「予定地は太陽光発電の適地と言えるのか」「ボーリング調査が必要ではないのか」といった質問が相次ぎました。専門家は「湿地は適していない」「まずはボーリング調査。地盤調査をすることが大前提」などと答えていました。

50kW以上だと、知事の認定が必要
49・5kW以下の"分割された7つの発電所"にして登録

 和歌山県では太陽光発電の設置に関して条例を定めており、出力が50kW以上の太陽光発電所を設置する場合は、県に申請して知事の認定を受ける必要があります。しかし樫河池の一帯は、49・5kWごとの7つの発電所として計画されています。付近の人によると、各発電所の土地自体は「全部つながっている」とのことです。

 県への申請を担当している県環境生活部では「グレーゾーンだとは思うが、国の制度ですでに認定されているので、(50kW以上を対象としている)県の条例の対象にはならない」と話しています。

国は"分割された7つの発電所"を認定
…しかし、審査は書類のみ

 国では太陽光発電などの再生可能エネルギーの普及を促進するため、再生可能エネルギーで発電された電気を一定の価格で買いとる「固定価格買取制度(FIT制度)」をもうけています。制度の対象となるためには、発電所が国からFIT制度の認定を受ける必要があります。

 樫河池周辺の"分割された7つの発電所"も、すでにFIT制度の認定を受けていますが、県内の認定を担当している近畿経済産業局によると、認定の審査は書類審査のみ。現地での確認や視察は、行われていないとのことです。

どこまでが「同一の発電所」なのか
大規模な発電所では「事業の一連性」を考慮

 国では大規模な発電所に関しては、建設前に環境への影響を調査することを義務付けています(環境アセスメント)。そのさいには、どこまでを「同一の事業」とあつかうかについて「事業の一連性」という考え方をホームページで公表しており、

・本来同一であると考えられる区域(中略)において、公共の安全の確保上必要ではないのに、設備間をさく、へい等で区切ったり、あえて私道を設けようとする場合などは、同一構内と扱う。

・法的な設置者や事実上の管理主体が同一であるなど、管理が同一者によるものであるかどうかを目安とする。

などとしています(*1)。近畿経済産業局によるとFIT認定のさいにも同様のことを考慮するとのことですが、前述の通り、その判断は書類審査のみとのことです。なお樫河池の"分割された7つの発電所"は設置者は7つとも別の会社や個人になっていますが、管理者は7つとも同じ会社になっています。

国が認めているから?
県も町も「問題はない」という方向

 紀美野町は昨年1月、再生可能エネルギーの発電所について「地域とトラブルになる事例が多く見受けられます(*2)」として、「紀美野町再生可能エネルギー発電設備と地域環境との調和に関する条例」を施行。県の条例で対象とならない出力が50kW未満の太陽光発電について、町との事前協議や、近隣住民への説明が必要になるとしました。条例を遵守しない場合は、事業者に対して勧告などの措置をとるとしています。

 紀美野町住民課によると、樫河池一帯の計画に対して懸念の声があることは確認しているものの、「条例自体を守っていないというところまでは行きついていない」として、勧告などの措置は行わない見込みとのことです。

 国が書類審査だけで認定した、49・5kWごとの"分割された7つの発電所"。懸念の声が相次ぐ中でも、県や町は、いったん国が認めたものであれば「問題ない」と、声をそろえる方向のようです。


(*1)経産省「工事計画届出等又は環境アセスメントの要否の判断に係る『同一発電所』及び『同一工事』に該当するか否かの判断の目安について」(https://www.meti.go.jp/policy/safety_security/industrial_safety/oshirase/2013/04/250404-1-1.pdf)P2,P3
(*2)紀美野町「紀美野町内で再生可能エネルギー発電設備の設置を予定している事業者の皆様へ」(https://www.town.kimino.wakayama.jp/material/files/group/6/s aiseienerugiseidogaiyou.pdf)P1

参考=土壌汚染調査の株式会社ジオリゾーム(https://www.georhizome.co.jp/)/和歌山県「和歌山県太陽光発電事業の実施に関する条例」(https://www.pref.wakayama.lg.jp/prefg/032000/taiyokojorei/gaiyo.html)/資源エネルギー庁「なっとく!再生可能エネルギー FIT・FIP制度」(https://www.enecho.meti.go.jp/category/saving_and_new/saiene/kaitori/surcharge.html)/再生可能エネルギー 事業計画認定情報(https://www.fit-portal.go.jp/PublicInfo)/経済産業省「太陽電池発電所・風力発電所に係る環境影響評価法及び電気事業法に基づく環境影響評価における事業の一連性の考え方について」(https://www.meti.go.jp/policy/safety_security/industrial_safety/sangyo/electric/detail/ichirensei.html)/紀美野町「紀美野町再生可能エネルギー発電設備と地域環境との調和に関する条例」(https://www.town.kimino.wakayama.jp/sagasu/juminka/2397.html)


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